なぜ手に取ったか
おもしろいマンガが読みたいなと思って買った本です。
黒いカバーに金色の絵が高級感とヤバさを増幅しています。
内容は見た目に反しない輝かしいほどに狂ったものでした。
なんというか不死者が主人公の話です。
ダークファンタジーです。
18禁というかエロもグロもたくさんあって、内臓も多分に転がります。
それなのにどこかさびしげで、切なくて、冷めているのに熱くて、求めているのは人に覚えて欲しかったこと、人を覚えておきたかったこと。
化け物の化け物による化け物たちの話です。
堕天作戦の魅力
①不思議な世界観
②作者の頭の中にある世界
③俺強い系の主人公との違い
④強者もあわれ
暗くよどんだ川に浮かぶ黄金のような作品をぞんぶんに味わってみてください。
以下堕天作戦のネタバレを含みます!
不思議な登場人物がおりなす不思議な世界観
裏サンデーより
不老不死の存在の話って内蔵グログロになりそうですし、実際内蔵描写もかなりあるのですが、なんかサラッとしてます。
恋愛ものでもないんだよなぁ。
偏愛の話ではあるかもしれないですが。
恋愛要素もあるんですけど、体なんかじゃわからないコアな部分で触れ合っている印象です。
肉体が不死だとどこかピュアになって行くって表現が好きです。
ずっと1人で寂しくて、それがすごく新鮮でした。
でもすごくよくわかります。
不老不死の存在の孤独、その深さって常人には計り知れない。
なのにそれをさらっとだから描けるのか捉えてるなぁっと感心させられました。
戦争もの、異世界もの、異能者バトル、拷問もの、異種姦ものでもあります。
幼女戦記の世界と近いかなぁ。
なんか不死者だからか、作者だからか(たぶん後者ですが)一つ深い人の皮を剥いだ先で世界を見ている感じです。
内臓で世界を見る。
なのになのか、だからなのかサラッとしてる。
作者の頭の中にある世界
この作者は血までさらさらしているのかなぁ。
ぐろぐろなダークファンタジーをさらりと書いてます。
世界の捉え方が歪なんだろうなぁと思います。
ギャグセンスもどこかふつうと違うのでクスッときます。
ほぼ最強の能力者がサタデーナイトフィーバーのポーズして最強魔法を唱えたり。
かと思えばすごい拷問を端の人物にさらっと話させて、想像させてえげつない感じを演出したりと、とか狙っているのか狙っていないのか。
とても上手です。
あとは物語のはしっこで無残に死んでいき何も残せず守るものも守れない一般的な兵士を描いたり。
かと思えば主人公であるアンダーに、人間のようにすぐ死ぬ無残な存在にはなりたくないと言わせたり。
不死者のイカレぐあいと、鈍感さ、異常さが描かれているので、相対的に人間というものの愚かさ、はかなさ、美しさ、醜さがこれでもかと感じられます。
俺強い系の主人公との違い
この物語の主人公アンダーは俺強い系でもあるんですけど、不死者という存在がどこか哀れ過ぎて、俺強い系に感じる嫌悪感を感じません。
なんだかよくわからないけど選ばれた才能をもつ俺、でもそんな特殊能力だとも思わないで使って、周りの人間が勝手に盛り立てて、俺ってそんなに目立ちたくないんだけどみたいなそんな主人公には嫌悪感を抱くのですが。この主人公にはそれがないです。
堕天作戦の主人公のようになりたいとは1ミリも思わないからだと思います。
俺強いしていますが、なんか俺強いしても許せます。
すごい大変そう。
心が摩耗して擦り切れて壊れても、それでもまた再生されて、何かの拍子にまともになって、まともになったことに絶望してみたいな、なんの罪だろうって思います。
殺されて殺されて何度も殺されて精神が壊れてしまった不死者も出てくるのですが、そりゃそうだろうと思います。
実験と称されて何度も何度も何度も何度も殺されてよみがえりを実験されたら、どんな意義も意味も言葉もすべてどうでもよくなって、この世界を内蔵で感じることができると思います。
不死者みたいなこんなおもしろいものはとことん殺してばらしてみたくなる。
この世界はそんなやつらが支配している。
そして異物である自分(アンダー)はこの人間の中に混じることができない。
私は一人だ。
誰とも混ざれない。
それがひどい絶望としてさらりと描かれます。
主人公には旅の目的なんてほぼありません。あっても何度も死ぬうちに忘れてしまいます。
シャックリと同じくらいの気軽さで死んでいく主人公にとって、歩く理由は現地調達しです。
ご飯や服や酒や死にたくないが簡易的な生きる目的です。
ときどき思い出して引っ張りだしたゲームのように、不死者って何かを調べていきます。
それでいいのかって突っ込みたくなりますが、無限の時間があったら人間は計画も立てないし欲望に従って、それに飽きたらパズルの続きを解きだすのでしょう。
強者もあわれ
この堕天作戦の世界はどこか強者も哀れな人が多いです。
救いはない。
だからやさしく感じます。
不死者なんてすごい存在なのに、人の中にいると自分の異常さがきわだってしまうから、樹海の中に入って自分の肉を食べて飢えをしのいでいた女性の不死者。
そんな彼女は主人公と出会ってひどくおだやかになっていきます。
自分の肉で焼き肉をしようというブラックジョーク(本音)を交えつつ。
一緒に露店風呂に入ったり、不死者あるあるを一緒に話したり、いい感じになったりします。
その中である日電池が切れたように彼女は死にます。
今までの不死者は完全に消滅するか心が壊れているか、その存在からまともな死を迎えることができないと思っていましたが、その中で彼女の死はとてもとても静かで穏やかで満ち足りたもののように感じました。
いや、次の瞬間には死体ごとまとめて消し飛ばされてしまったのですが…
そんな狂ったようなやさしいようなエピソードがたくさん詰まっています。
好きな人はすごい好きだと思います。
嫌いな人はとことん嫌悪感を抱くと思います。
(でもアマゾンでとてつもない高評価だったから、この乾いた時代に求められているのかなぁと思いました)
堕天作戦まとめ
最近読んだ漫画の中ではピカイチにおもしろいです。
まだ5巻程度しか出てないので読みやすいですしね。
現在は休載しているみたいですが、内容といい黒さといい熟成させたほうが発酵してよい作品になりそうです。
途中で終わってしまうかもしれませんが、それでも読む価値のある作品だと思います。
(途中で終わってしまったら、その乾きが癒されたのでしょう)
理由のある脱力系主人公が見たい方はぜひ一読ください。
黒いカバーに金の文字で、イヤな予感がぷんぷんします!